システム開発の契約が民法改正で変わる
民法の契約に関する内容が、120年ぶりに改正される。明治時代に制定された法律が現在まで変わらなかったというのも驚きである。当然ビジネス形態やそれを取り巻く環境は大きく変わり、現状に沿った改正がなされることになった。民法は私たちの生活やビジネスに直結するため、大きな影響が予想される。
改正案は2015年に既に通常国会で審議され、2017年度の国会で可決されれば2019年頃に施行される見込みである。施行までに期間が空いているのは、周知に時間がかかり、かつ影響が大きいことを示している。
民法が改正される点は約200項目あり、その中でもIT業界はシステム開発委託契約が大きく変わると見られている。委託契約が多いIT業界においては広範囲で影響を及ぼす可能性があるため、事前にどのようなものか把握し対応する必要があるのである。
※2016年7月22日に公開した記事ですが、リライト記事に必要な文言等を一部追記し、その他の部分も修正して2017年6月20日に再度公開しました。
システム開発における契約
システム開発プロジェクトでは、主にユーザー企業とITベンダーは「請負契約」、「準委任契約」、「派遣契約」のいずれかで契約する。そして今回の民法改正では、この契約に関する内容が変更される。このなかでも、改正に影響があるとされる請負契約と準委任契約について、それぞれどのような契約なのか、解説する。これより以下はユーザー企業を「発注側」、ITベンダーを「受注側」と表記する。
請負契約
請負契約では仕事を完成させる契約ということがポイントとなる。この契約の受注側は以下の責任を負わなければならない。
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完成責任
受注側には契約で定められた成果物を完成させる責任がある。そのため、一方的に受注側が契約を破棄することができない。
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瑕疵(かし)担保責任
瑕疵とは製品の欠陥を指す。仕事の完成は、納品された成果物に問題がないということが前提である。そのため、発注側が成果物に問題を発見した場合、納品から1年以内であれば無償で修正することや損害賠償を支払うことを請求できる。
上記を踏まえた上で、受注側は以下の条件を満たしている必要がある。この条件を満たさない場合は偽装請負とみなされることがある。
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業務の処理について、事業主として財政上及び法律上のすべての責任を負うこと
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自らの設備や資材を使って作業を行うもので、単に肉体的な労働力を提供するものではないこと
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発注側から指揮命令を受けないこと
システム開発では、主に内部設計や製造、単体テスト、結合テストを請負契約で発注する。その他にも、状況に応じて請負契約を結ぶ場合がある。
準委任契約
準委任契約はSES契約とも呼称され、業務を処理することを約する契約ということがポイントとなる。ちなみに準委任契約に「準」と付いているのは、民法で法律に関わる仕事の場合は委任契約、それ以外を準委任契約と定めているからである。
請負契約と違い完成責任はなく、労働力や技術力を提供することが中心である。これは医者が良い例で、手術自体に代金が発生し、それが成功したか失敗したかで支払う代金が変わらないことと同じである。
この契約は以下のような特徴がある。
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善管注意義務がある
受注側に仕事を完成される責任はない。しかし、業務を委託されるということは、専門家として業務を委託するに足る技術があることであり、一般的に期待されるレベルの注意を払うことへの期待が含まれる。
そのため受注側には、善良なる管理者の注意をもって委任された業務を処理する義務(=善管注意義務)があり、これを怠ると債務不履行責任を問われることになる。例えば、受注側が解決すべきプロジェクトの問題を一切手をつけずにそのままにしている場合や、それを発注側に報告していない場合、善管注意義務違反となり債務不履行となるのである。 -
報酬は労働期間ごとに支払う
「仕事の完成」という明確なゴールがないため、報酬は一定期間ごとに支払われるのが一般的である。例えば、受注側は毎月最終日に業務報告書を提出し、発注側は内容を確認の上、翌月末に報酬を振り込む、といったものである。
これに加え、請負契約で記載した受注側の条件を満たしていない場合は、同様に偽装請負とみなされることがある。
準委任契約では、主に要件定義や外部設計、総合テスト、ユーザーテスト、運用・保守などで発注する。その他にも状況に応じて、準委任契約を結ぶ場合がある。
ここまでは現行の民法での契約形態である。次にこれが民法改正でどのように変わるのか解説する。
民法改正でここが変わる
システム開発の契約形態について把握したところで、今回の民法改正で具体的に変わった点を以下に挙げる。ポイントは大きく分けて三つある。
瑕疵担保責任が変わる
まず請負契約に関する民法改正のポイントを解説する。上記で請負契約には瑕疵担保責任があると説明したが、これが条文から削除された。その代わりに、同様の責任が定められた条文が追加される。改正案では瑕疵や担保という言葉は使われず、契約で定めた内容に適していないという意味で「契約不適合(=未完成、重大なバグがある)」という言葉が使われるようになる。
それに伴い、その内容も一部変更された。
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代金減額請求権が加わる
これは契約不適合の成果物に対して、追加で修正がなされない場合、不具合の大きさに応じて受注側に支払う代金の減額を請求できる権利である。不具合の修正を他社に依頼した場合や発注した企業で修正した場合に、その費用分を減額することができる。
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賠償請求の起算点が変わる
これまでは、成果物を引渡し後の1年以内でなければ不具合を発見しても無償の修正や、自ら修正した場合の費用の請求ができなかった。これが改正案では「不具合が有る事実を知ったときから1年間」となる。つまり不具合を発見しても、何らかの理由で1年以上放置していれば、その権利は失われる。また、これは発注した企業が不具合を発見した際に、開発した受注側に通知をすることが必要である。もちろん無期限ではなく、上限は引渡しから最大5年以内ではあるものの、無償で修正、あるいは修正に伴う損害賠償請求ができる期間が大幅に伸びたと解釈すれば良いだろう。
これにより、受注側は従来よりも更に品質の良いシステム開発を行わなければならなくなった。成果物を引き渡してから数年後に改修を行うというのは、非常にコストがかかることだろう。
この改正は発注する側の企業にメリットしかないように見えるがそうとも言えない。受注側からすれば、保証期間を延長することになるため、これまでよりも発注にかかる金額が高くなる可能性があるのである。
プロジェクト中断でも支払い義務が発生
請負契約では完成責任があり、受注側は成果物を完成させて初めて報酬を受け取ることができる。しかし、プロジェクトが中断され契約解除となった場合が明文化されていなかった。そこで改正案では、プロジェクトが中断した場合でも支払い義務があると明文化することになった。改正案ではこの一定の利益の割合に応じて、受注側に支払う義務が生じたのである。ただし、これは途中まで作成した成果物で利益が得られている場合である。例えば、開発を中断したシステム開発を別の企業が引き継いで完成させ、利益を得た場合、途中まで開発した企業が一定の割合で報酬を受け取ることができるというものである。
これまでは、こうした規定がなかったものの、同様のケースで、判例として部分的な請求が認められていたこともあり、現状に民法が合わせたと言えるだろう。しかし、こうして明文化されたことを、改めて認識する必要がある。
準委任の支払い条件が明文化される
準委任契約では、報酬が労働期間に応じて支払われると解説したが、契約に「成果に対して支払う」と加えることで、成果に対する報酬を支払う契約を結ぶことができる。しかし、民法では明文化されていなかったため、二つの報酬の支払い条件に明文化されることになった。
履行割合型
従来の労働期間に対して報酬を支払う契約である。従来の準委任契約と同様に期間や人数で報酬を決める。これは、長期間携わるものであり、完成した成果物等で区切ることができない場合に用いられることが多い。
成果完成型
委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払う契約である。請負契約と酷似しており、成果物に対して報酬を支払うことを契約書で明記した場合に適用される。また請負契約と同様に完成責任も伴う。
契約自由の原則に注意
民法改正により上記の三つが変わると予想される。しかし、これらの変更に強制力があるかというと、そうとは言えない。ここで知っておかなければならないのが「契約自由の原則」である。
契約自由の原則
これは、民法で定められた内容と異なる内容で契約した場合、常識と照らし合わせて著しく逸脱してなければ、契約内容が優先されるというものである。例えば、改正案では不具合の無償修正に関して「不具合が有る事実を知ったときから1年間、5年以内が上限」としているが、契約で「引渡しから3年以内」と結んでいた場合、契約を結んだ「3年以内」のほうが優先されるのである。そのためどのような個別契約を結ぶか、という点が大変重要になるのである。
まとめ
今回の法改正は現状に民法を合わせたものであり、あまり影響を受けない企業と大きな影響を受ける企業がそれぞれあるだろう。そこで改めて行うべきなのが、契約の確認である。これは受注者や発注者など関係なく、業務に関わるすべての人間が把握している必要がある。民法改正について把握していなければ、受注者、発注者のどちらも不利益を被る可能性がある。そのような事態を防ぐために、どのような契約を結んでいるのか今一度見直して協議を重ねて欲しい。また今後長期契約を結ぶのであれば、民法改正について、受注側と発注側がお互いに周知させるべきである。
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